宮崎大学
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オストメイトの暮らしに寄り添いたい ~ 広島県から移住したサーファー看護師 ~

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竹入 恵美(たけいり えみ)さん

看護師(医学部附属病院 看護部 看護実践支援室 褥瘡対策担当副看護師長)

1981年生まれ。広島県呉市出身。2人姉妹の長女として生まれる。
小学校時代にバスケットボールを始める。習い事は習字とエレクトーン。
中学校、高校時代は、陸上部(短距離・跳躍)に所属し、エレクトーンも続ける。
高校卒業後、呉医療センター附属看護学校に3年通い、看護師の資格を取得。
看護学校卒業後は、国際看護に興味があったことから、東京都の国立国際医療研究センターに就職し、消化器内科病棟で3年間勤務。
国際看護への興味は更に高まり、ロサンゼルス州(アメリカ合衆国)に約1年間の留学を決意。英語と看護を勉強しNCLEX-RN(カリフォルニア州の看護師)のライセンスを取得。

留学時に出会った日本人のルームメイトが帰国する際に置いていったサーフボードで友人にサーフィンに連れていってもらったところ、波のパワーを体感しサーフィンの魅力を知る。

帰国後、アメリカで学んだ語学と看護を活かしたいと考え、広島大学医学部保健学科看護学専攻の3年次に編入学。いつか青年海外協力隊のような国際協力にたずさわり保健活動をしてみたいという気持ちが芽生え、保健師の資格を取得するために勉強を重ねる傍ら、休日には宮崎県などに友人とサーフトリップに出かけることもしばしば。

サーフトリップで初めて宮崎を訪れた時から宮崎の海に魅了され、大学卒業後に移住することを心に決め宮崎大学医学部附属病院の採用試験を受け、2010年4月から宮崎大学医学部附属病院の看護師として勤務。2017年に皮膚・排泄ケア認定看護師の資格を取得。(現在に至る)

好きな歌手は、MISIA      
好きな言葉は、「人生は一度きり」

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■カリフォルニアでのサーフィンとの出会いが宮崎につながる

アメリカ留学の際にサーフィンと出会い、波の上をすべるという感覚の虜になりました。それ以来、「もっと波に乗ってみたい」と思うようになり、サーフィンとの出会いが宮崎への移住につながりました。

アメリカから帰国後、広島大学医学部保健学科看護学専攻の3年次編入しました。広島大学での2年間は、看護師として現場を経験し、海外留学を経て、再び看護師をしながら大学で学ぶという私自身の学びへのモチベーションも上がり、充実した大学生活を送ることができました。もちろん、休みの日にはサーフィン仲間と一緒に宮崎をはじめ、島根や高知などに波を求めてサーフトリップに行くようになり(一人でも結構いろんな所行きました)、勉強も遊びも全力疾走していました。

そうこうしているうちに、車ではるばる遠いところまで行くのは時間がもったいないということに気づき、仕事もサーフィンもできる環境を探すようになりました。そして、「宮崎」「千葉」「種子島」の3つが候補として残り、最終的には、

    ①両親に何かあっても陸続きなので車で移動できること、
    ②温暖な気候と安価で美味しい食べ物がたくさんあること、
    ③海の近くに大学病院があること

の3つが揃った宮崎に移住することにしました。

周囲の人からは「変わっているねぇ」ってよく言われますが、私が住んでいる青島には、私と同じように宮崎の環境に魅了されて移住してきた人が数え切れないほどいますよ。笑

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△青島海岸の朝焼けとサーファー(撮影:島根亨氏)

■「おはよう!今日も早起きだね」一日の始まりはこんな会話から

私の住む青島地区は海のそばにあり、自転車に乗って5分程度でサーフィンポイントまで行くことができます。首都圏のサーファーからはみんなに羨ましがられます。
3月から9月ころにかけては、日の出30分前から海に入れるように、アラームをセットしています。

例えば8月は、5時半頃が日の出なので、5時頃に起床し、すぐに自転車に乗って海に向かい、日の出前から海に入っています。起きる時はもちろん眠いのですが、海に入ると強制的に目覚めます。海から上がる頃にはトップギアに入っている感じです。仕事の都合などもあるので、毎日というわけにはいきませんが、週に3~4日くらいのペースで、自宅から自転車に乗って海に通っています。

宮崎に移住して10年以上が過ぎ、海まで自転車で向かう途中にすれ違うサーフィン仲間と「おはよう!今日はあまり波がないね」とか「だいぶ日焼けしたねぇ」といった会話やご近所さんとの「きゅうり沢山採れたから玄関に置いといたよ」といったたわいもない会話も日常となり、首都圏の生活にはなかった人の温もりを感じる日々を送ることができています。

私が宮崎に移住した当初は、今ほど移住者も多くなかったのですが、コロナ渦での在宅ワークの普及で今では移住者も増え自転車サーファーが激増しました。早朝、海に通っている半数以上は宮崎県外から移住してきたサーファーの皆さんです。日本人に限らず、外国人も多く移住していて、出身が地方・首都圏・海外とまさに多様性溢れる地域と言えます。サーフィンには自転車で、職場までは車で通っていて、首都圏で働いていたときのような満員電車通勤によるストレスとは無縁の世界です。

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△仕事前に波に乗る竹入さん

■ストーマ(人工肛門・人工膀胱)を使用するオストメイトに寄り添いたい

海の話しばかりすると、遊んでばかりいるように思われるかもしれませんが、仕事も真面目にしています(笑)。遊びも仕事も全力で取り組んでいます!
現在は、看護部看護実践支援室に所属し、 褥瘡(じょくそう)対策担当看護師として病院内を組織横断的に活動しています。

褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ったりすることで、皮膚の一部が赤味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまう「床ずれ」のことです。治療により安静が必要な患者さんや寝たきりの患者さんが、床ずれなどで苦しい思いをしないで良いように、現場の医師や看護師、薬剤師、管理栄養士など他職種と協働し、ケア方法の検討やマットレスの選択などの褥瘡予防対策を行ったり、褥瘡発生時には適切な治療・ケアが行えるよう支援することが基本的な業務になります。

また、褥瘡対策の傍ら皮膚・排泄ケア認定看護師としてのスキルを活かし、入院中の患者さんのストーマケアのサポートやスタッフ教育を行っています。ストーマ(人工肛門・人工膀胱)は、大腸や膀胱の疾患(癌や炎症性腸疾患など)に対する手術によって、本来の肛門・膀胱の機能ができなくなった場合に、排泄物を体外へ排出するために手術で腸や尿管を腹壁に誘導して作られる人工的な排泄口です。

ストーマを保有する方のことをオストメイトといいます。厚生労働省の報告によると、永久的にストーマ保有者は国内で20万人を超えており(厚生労働省 福祉行政報告例)、宮崎県内には約2,000人いると推定されています。今後も高齢者人口の増加とともに、オストメイトの増加が予想され、ストーマケアの重要性は高まると言われています。

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■ストーマケアには解決すべき課題が盛りだくさん

私のような褥瘡やストーマケアなどを専門としている看護師の資格を皮膚・排泄ケア認定看護師をいいます。現場では、WOC(Wound Ostomy and Continence)ナースと呼ばれ、宮崎大学医学部附属病院に4名、宮崎県内には14名(2023年6月時点 日本看護協会)のWOCナースがいます。

大腸や膀胱などの疾患が原因でストーマを造設したオストメイトは、手術後平均12日間程度の短い期間で退院することとなるため、ストーマを自己管理する方法(ストーマセルフケア)を短期間で習得しなければなりません。

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パウチと呼ばれる装具の取り付け方や周囲の皮膚のケア、ストーマの形状に合わせた穴の切り方、パウチから便を排出する方法など、多くのことを学習する必要がありますが、短い入院期間の中で装具をスムーズに装着できるようになることは簡単ではありません。

そのため、退院後に、オストメイトが便漏れや皮膚トラブルなどを起こすことも多く、「もっとセルフケアのトレーニングを積んでから退院したい!」という切実な思いに答えられないまま退院してもらい、申し訳ない気持ちになることも多々あります。

また、自身でセルフケアが難しい場合には、退院後のケアを担うのは、家族や訪問看護師、介護士であり、オストメイトのみならず介護者の技術の習得も課題となっています。

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△同僚の認定看護師(左:篠田看護師)と実演をする竹入さん

■ストーマセルフケアのより良いサポートを求めて

「癌と言われただけでもショックなのに、ストーマの手術をしてお腹から排泄物がでてくるなんて...」、「手術後には元の生活に戻れるんだろうか」など、オストメイトの方は手術前から多くの不安を抱えています。しかし、オストメイトのような内部障害を抱えている方は服を着ていると、障害を抱えていることが分かりにくく、自ら切り出す機会もないため、悩みを人と分かち合うことができず、1人で悩んでいる方が多いのが実情です。

こうしたオストメイトの思いや課題を目の当たりにし、私たちは、外科医・看護師・オストメイト・地元企業・宮崎県で「OSTrain-VR project」というチームをつくり、先輩オストメイトが行う習熟したストーマセルフケアとWOCナースが行う指導的なストーマケアを「いつでも」、「どこでも」、「何度でも」繰り返し体験学習できるVRトレーニングアプリの開発を始めました。

そして、このVRトレーニングアプリを実用化するために、2023年8月からクラウドファンディングを開始しました。これまで、オストメイトに関わる課題に挑み続けてきた先輩方の熱い思いと、これから発展する新たな映像イノベーションを織り合わせることで、多くのオストメイトやオストメイトをサポートする方々に、安心や笑顔を届けられたらと考えています。

クラウドファンディングの詳細は、以下のURLから確認できますので、一人でも多くの皆様に私たちの取り組みを知っていただければ嬉しいです。

VRでストーマケアを習得!体感型トレーニングアプリを開発したい 「OSTrain-VR Project」(~2023929日)
https://readyfor.jp/projects/ostrainvr

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△プロジェクトの宮崎大学コアメンバーと一緒に(記者会見にて)

■視線の先に

先にも述べましたが、永久的にストーマ(人工肛門・人工膀胱)からの排泄を行うオストメイトは宮崎県内には約2,000人いると推定されていて、今後も増加していくと予想されています。現状では、情報不足により支援の窓口がわからなかったり、高齢化により自身でスマートセルフケアができなくなった時のケアの担い手に対してのケアの習得の機会がなく困っているということが生じています。

まずは、宮崎県からストーマケアに困っている人を減らすためにも、仲間で力を合わせて、現在進行中のクラウドファンディングを成功させて、VRトレーニングアプリの開発と実用化を実現させたいと考えています。そして、宮崎県のみならず、全国に20万人いると推定されているストーマケアに困っている人にも貢献できるように発展させていければと考えています。

もちろん、簡単に実現できるものではありません。10年・20年といった長いスパンで地道に取り組んでいくことも必要と考えています。そのためには私自身も健康でなければならないと常々思っています。私としては、還暦を過ぎてもサーフィンを続けることができる体づくり(私の場合はダイエットも必要...)を目指し、その上でひとりでも多くの方を支えることを目標にしています。

え?サーフィンするための大義名分を作っている?ま、そうかもしれません。でも、人の支えになるには、自分自身が自分らしく、楽しく、心身ともに健康的でいることはとても大切です。心と身体のいずれかが疲れている状況では、良いパフォーマンスは発揮できません。

私にとっての宮崎は「日本のカリフォルニア」で、常に心と身体のバランスを整えてくれる居心地の良い場所です。気付けば10年以上宮崎に住んでいて、友人も増えました。私以外にも仕事前にサーフィンをする医師・看護師・研究者・職員は複数います。もちろん、学生のサーフィン部もあります。リゾートライフを送りながら、一緒に宮崎大学で仕事も遊びも全力で取り組む仲間を増やしていきたいですね!

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△波をチェックする竹入さん

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△大学から車で10分程度の木崎浜では2022年には全日本選手権が開催された

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△竹入さんがサーフィンをする砂浜には7月頃には多数のアカウミガメが産卵に上がってくる


【関連情報】
VRでストーマケアを習得!体感型トレーニングアプリを開発したい 「OSTrain-VR Project」(~2023929日)
  https://readyfor.jp/projects/ostrainvr

▼宮崎大学医学部附属病院 職員採用サイト
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/hospital/recruitment/

▼救急医のプライベートに密着(サーフィンを楽しむ救急科専攻医)
https://www.youtube.com/watch?v=oWEUPkKEHXQ

▼【宮崎大学紹介映像】AI×農業・医学×獣医学!?分野を超えた学びに迫る!
https://www.youtube.com/watch?v=qWN2VR5_9TM

▼【宮崎大学のひと】宮崎は日本のサンディエゴ ~リゾート環境で研究に専念する医学部教授
https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/public/folder760/003.html

▼【宮崎大学のひと】留学先を宮崎にした決め手はサーフィン環境 ~グアテマラから来た留学生
https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/public/folder760/006.html



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