twitterロゴ
B!

Vol.7 「音楽の持つ力」について考えた映画2題

ともに創る。
2022.5.26

『お気に入りの本や音楽と旅するように、このコラムを読みながら地域を旅してもらいたい』。そんな気持ちのまにまに綴る、Capa+部門長コラム。(不定期で掲載します)

私たちの目の前の対立

ロシアのウクライナ侵攻が始まってもう3か月が経ちます。私たち人類は二度の世界大戦、その後の東西冷戦、様々な領土的な対立を経て、対立や混乱を抱えながらも決定的な局面に至らないための知恵を身に付けたはずでした。毎日多くの報道に接し、「なぜこんなことが目の前で繰り広げられるのか」「なぜ我々は対立を防ぐことができないのか」と考えると、無力感に苛まれます。が一方で、起きている事実から目を背けてはならないと肝に銘じています。
そのような中で、大好きな映画と大好きな音楽の力、人の心を動かす力について少し書きます。

「CRESCENDO~音楽の架け橋」

【和解はできなくても、お互いを認め共存はできる?】

CRESCENDO~音楽の架け橋 公式サイト(https://movies.shochiku.co.jp/crescendo/)より

本当にたくさんのことを感じさせてくれた作品です。厳しい対立と争いの続くパレスチナとイスラエルの若者と、世界的な指揮者である一方で「ナチの息子」という出自に苦しんできたエデュアルト・スポルクを中心とした物語です。
パレスチナとイスラエルの音楽家を夢見る若者たちが集められ、オーケストラを結成しコンサートを開くというプロジェクト。オーディションを経て集められた若者たちは、イスラエルの男性バイオリニストのロン、パレスチナの女性バイオリニストのレイラに代表されるように、音楽という共通の宝を持ちながら、お互いに全く交わることはなく激しく反目し合います。しかし南チロルでの合宿の中で、一つずつ音が和していく、そして言葉はなくても気持ちが和していく姿が描かれます。
そしていよいよ一つの音楽が出来上がる、と期待されたその時に、ある事件が起き、コンサートは中止となりプロジェクトチームは解散します。

【ボレロ~クレッシェンド】

CRESCENDO~音楽の架け橋 公式サイト(https://movies.shochiku.co.jp/crescendo/)より

場面は空港。イスラエルとパレスチナに分かれ、ガラスで仕切られ、お互いの顔は見えるものの音が伝わることのない空間です。
ロンがバイオリン手に立ち上がり、レイラに対し弓でガラスをたたきボレロのリズムを伝えます。そしてロンとレイラが二人でボレロを奏で始めます。徐々にそれぞれの国の仲間たちが立ち上がり、それぞれの楽器を手にして演奏に加わっていきます。   
少しずつボレロが拡がり音が大きくなって場面、指揮者がいない中で音楽が出来上がっていく、まさにクレッシェンドです。写真にもありますがロンとレイラが見つめ合いながら音楽が拡がっていく見事な描写です。私は二人の見つめ合いの深さの意味を今でも考えています。

Coda コーダ あいのうた

【コーダとは】

コーダ あいのうた 公式サイト(https://gaga.ne.jp/coda/)より

2022年のアカデミー賞の作品賞を受賞した「coda あいのうた」も音楽の持つ力を表現した素晴らしい映画です。
コーダとは「ろう者の親を持つ健常者」という意味です。主人公のルビーは高校生ですが、漁業を営む、いずれも耳の聞こえない父・母・兄を支え、共に船に乗り、仲間の漁業者や取引業者と手話を使ってコミュニケーションをとります。両親、兄共に明るく活力にあふれ、ルビーも常に自転車を全速力で乗り回す、疾走感にあふれた魅力的な高校生です。

【父と母と兄がルビーの歌を聴く】

コーダ あいのうた 公式サイト(https://gaga.ne.jp/coda/)より

毎日の船上では楽しそうに歌いながら、でも他人の前では歌ったことのないルビーが、憧れのマイルズに近づくため合唱クラブに入ります。初日は恥ずかしさで声も出せなかった彼女が徐々にその才能を発揮していき、顧問の先生からその才能を認められ、名門校バークリー音楽大学の受験を勧められます。両親も兄もルビーの才能を理解できませんし、ルビーが傍にいなくなることの不安から進学に反対をしますが、でもその家族が秋のコンサートに来ます。
ルビーが歌い始めて暫くすると、全ての音声がなくなります。聴衆である私たちは両親や兄と同じ状況に置かれるのですが・・・・、彼らはルビーの歌を聴きます。どうやって?
もちろんルビーの家族に音は聞こえません。でも戸惑いながら周りを見回すとそこには、ルビーの歌声を楽しんでいる聴衆の笑顔があります。感動して涙している人、音楽に合わせて拍手をする人、足や体全体でリズムをとっている人の姿があります。ルビーの家族は聴衆の表情や動きから、そして鼓動から、ルビーの素晴らしい歌を感じ、笑顔になります。そして私たちもルビーの歌の中に入ったところで、音声が聞こえてくるのです。本当に見事な描写です。
その夜父親は星空の下で、ルビーに「歌って欲しい」と頼み、ルビーの喉に手を触れます。

改めて音楽の力

私は、音楽も大好きですし、映画もとても好きです。先日閉幕した国際音楽祭でも、旧ソ連邦であるラトビア出身のミシャ・マイスキーが見事なチェロの演奏を聴かせてくれました。また大野和士さんの指揮のもとで、予定にはなかった「ウクライナへの祈り」が演奏され、更に「音楽は世界を癒やす」と題してヴェルディの「レクイエム」が演奏されました。
私はピアノもチェロも弾けませんし音楽に詳しいわけではありません。でも人が自らを表現することの魅力、人と人が交わり共に音を作っていくことの面白さ、そして劇場で隣の席の見知らぬ人と共にそれを聴き、体中でリズムを感じることの楽しさ、そのような音楽の力を大切にしていきたいと思っています。
皆さん、機会があったら是非、今日紹介した2つの映画を、そしてたくさんの音楽を楽しんでください。

文:永山 英也 Nagayama Hidenari
   Capa+部門長/宮崎大学長特別補佐

▼部門長コラムバックナンバーはこちら

Vol.1 魅力的な14人との豊かな時間
Vol.2 “一陣の風が通り過ぎたあと、花が香りを残してゆくような、そんなひと”に出逢う
Vol.3 「デザイン」や「アート」についての独断的考察
Vol.4 令和4年の幕開けに“令和の人?”中西進さんを読む
Vol.5 ベトナムの若者の皆さんとの楽しい対話 ~JICA青年研修(KCCP)・アグリビジネス/アグリツーリズム~
Vol.6 3月17日を少し過ぎてSDGsを考える